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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)61号 判決

事実及び理由

1  請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

(一)  本件考案において打玉待機路を設けたのは、玉を打つのを休んでも、その間、定速玉送り装置は動作をしているので、玉は引続き送り込まれて打玉徒機路に溜り、再び玉を打ち始めたときは制限以上の速さで打てるから、早打ちを楽しむことができ、かつ休んでいる時間を通算すれば一定時間に対する制限個数以上を打つことはできないという目的を達成し、効果を奏するためであることは、当事者間に争いがない。

一方、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例記載の考案は、(1)「単位時間当りに客が(引用例に「客を」とあるのは「客が」の誤記と認めるので、読み替える。以下同様に誤記を読み替える。)発射できる打玉の数を一定ならしめんとするもの」(引用例公報第一頁左欄第一二行、第一三行)であつて、引用例には、その構成及び作用効果について、「考案の詳細な説明」に、(2)「貯溜部1内に収められた打玉は(「打玉に」は「打玉は」の誤記と認める。)通路2(「通路11」は「通路2」の誤記と認める。)を一列に流下し、その通路3(「通路12」は「通路3」の誤記と認める。)に入らんとする所で制御片7のため進行を阻止されている……制御片7(「制御片16」は「制御片7」の誤記と認める。)は回動し打玉を一個宛通路3に送りこむのである。結局、通路2にある打玉は一個宛、時計式スイツチ10の単位時間当りの作動数と等しく通路3に送りこまれ、この作動は通路2にはもはや打玉がなくなるまで続けられる」(同頁左欄第三一行ないし右欄第八行)、(3)「本案によれば、制御片7によつて打玉を単位時間当りに一定数宛発射位置に補給するのであるから連射による客の射倖心を抑制し、健全な遊技を楽しませることができる。」(同頁右欄第二五行ないし第二九行)、(4)「通路2の末部の切開下底を塞ぐ旋回底板が玉の圧力で旋回を制御させられる」(同頁左欄第二一行、第二二行)、(5)「図示の実施例によれば、通路6は末部において底が切り開かれ、旋回底板14が切開部を塞いでいる。旋回底板14にはバランスウエイト15が取付きレール5の始部に玉が留まり、これに詰つて通路6中に玉を滞溜する場合、この滞溜玉の重量(「滞溜玉出重量」は「滞溜玉の重量」の誤記と認める。)で旋回を強制させられて該玉を外部例えば賞球受皿に放出するようになつている。」(同頁右欄第一八行ないし第二四行)と記載されており、右の(2)、(3)において制御片の構成とその技術的意義が示され、(4)、(5)において旋回底板の構成とその作用が示されていることが認められ、右認定事実によれば、打玉を単位時間当りに一定数発射位置に補給することにより連射による客の射倖心を抑制し、健全な遊技を楽しませるという審決認定の作用効果は、特に右(2)と(3)の記載から明らかなように、制御片によるものというべきである。

審決は、「引用例記載の考案が旋回底板を設けたのは、……通路中に滞溜した玉を強制放出し、連射による客の射倖心を抑制するためであつて、本件考案のような目的を達成し、効果を奏するためではない。」と判断しているので、以下に、引用例記載の考案において旋回底板を設けた目的、効果について検討すると、前掲甲第三号証によれば、引用例記載の考案の実用新案登録請求の範囲は、「打玉貯溜部から打玉を発射位置に導く通路の過程に打玉の進行を阻止する制御片を設け、上記通路の制御片に臨む位置に制御片にて阻止される玉の重量で閉ざされるスイツチを設け、このスイツチを制御片が(「制御片わ」は「制御片が」の誤記と認める。)単位時間毎に釈放作動する時限装置の回路に接続してなるパチンコ機の打玉補給装置」であつて、旋回底板の旋回により通路中の滞溜玉を放出して通路に打玉の滞溜を許さないという構成については、実用新案登録請求の範囲自体に何らの記載もなく、また「考案の詳細な説明」の前記(4)、(5)の記載からは、旋回底板が旋回を強制されることによつて、通路中における滞溜玉を全部外部へ放出するのか、あるいは一定数を越える滞溜玉のみを放出するのか明らかでなく、ほかに「考案の詳細な説明」の記載には、通路6中における滞溜玉が連射を可能にするので、これを旋回底板により全部外部に放出すべきことを示唆する事項は見当らない。

翻つて、前掲甲第三号証及び成立に争いのない甲第四号証によれば、本件考案の登録出願の願書に明細書と共に添付された図面である別紙図面(二)の第1図(平面図)には、通路6中の旋回底板の枢支点から通路6の終端部までの間の終端部寄りに玉が一個描かれているが、この各部位の間には、なお玉が二個程度並ぶことも可能な距離が設けられており、更に第3図(作動説明図)には、通路2から制御片7を経て通路6の終端部に至るまでの過程が断面図をもつて示されているところ、この通路6には、その終端部に、玉が三個実線をもつて描かれ、その直前の旋回底板上には、玉が四個点線をもつて描かれ、この旋回底板が旋回を強制され、旋回底板上の玉が外部に放出される状況が図示されていることが認められ、これら各図面の記載に前記引用例記載の考案の明細書の記載を参酌すると、引用例には、図示の実施例として、通路6には、終端部において少なくとも玉が三個程度滞溜する部分が存し、通路6はその部分を残して底が切り開かれ、この切開部に玉が四個程度滞溜しうる長さの旋回底板14が設けられ、この旋回底板にはバランスウエイト15が取り付けられており、レール5の始部に玉が溜り、これに詰つて通路6中に玉が七個程度以上滞溜すると、旋回底板上の玉の重量で旋回底板が旋回を強制されて、終端部の玉三個程度を残してその余の玉を外部に放出する構成を有する装置が開示されていると認められる。したがつて、引用例の右実施例記載の装置は、旋回底板が旋回する前は、通路6中に最大六個(通路6の終端部に三個、旋回底板上に三個)程度の玉が滞溜することが可能であり、旋回底板が旋回して玉が放出された場合でも、なお三個程度の玉が滞溜する構成を有するものである。

以上説示したところによれば、引用例記載の考案における旋回底板が、その板上に滞溜する玉の重量がバランスウエイトとのバランスを超える程度に達する場合に、旋回を強制され、その滞溜玉を外部に放出する作用を営むことにより、前記(2)(3)の制御片の作用と相俟つて連射による射倖心を抑制するという目的の達成に資するものであることは否定できないが、これとともに、旋回底板は前述のように玉が滞溜する構成を有するため、客が玉を打つのを休んでも、その間、玉は引続き通路6に送り込まれ、客が玉を打つのを再開する時点では三個ないし六個程度の玉が通路6に滞溜し、客はこの滞溜玉によつて制限以上の速さで早打ちを楽しむことができ、かつ休んでいる時間を通算すれば一定時間に対する制限個数以上を打つことはできないという目的を達成し、効果を奏するものであるから、本件考案において打玉待機路を設けたことによるのと同一の目的を達成し、効果を奏するものであることが明らかである。

それ故、引用考案の旋回底板の奏するこの後段の目的、効果を看過し、これをもつぱら「通路中に滞溜した玉を強制放出し、連射による客の射倖心を抑制するため」のものとした審決の判断は誤りであり、また「引用例」の考案を「打玉の滞溜を許す構成であるとすることは、引用例に記載された考案の目的に照らし、到底認められない。」とした審決の判断もまた誤りといわなければならない。

被告は、引用例の右第3図は、旋回底板が旋回し、通路6に滞溜した玉が旋回底板上を転動して外部に放出される状態を示したにすぎない旨主張するが、右第3図には、通路6の終端部がその始部より下方に傾斜して図示されており、該構成においては、終端部に実線をもつて描かれた三個の玉に関する限り、それが上方に転動して外部に放出されることはありえないことである。また、被告が指摘する外部に落下している二個の玉は、いずれも点線で、表現され、かつ旋回底板上の玉と線をもつて関連付けて図示されていることからみて、旋回底板上の玉が外部に落下していく状況を図示したものとみるのが相当であり、被告が叙上と異なる見地に立脚して、右第3図には、四個の玉が旋回底板に滞溜した場合に初めて旋回が生ずる状態が図解されているとする原告の主張(当裁判所は、滞溜する玉の個数を四個程度とするほか、右主張を是認する。)を明らかな誤りであると論難することは是認できない。また、被告は、引用例には通路に玉を待機させる技術的思想は全く開示されておらず、むしろ通路における玉の待機を否定する技術的思想のみが記載されていること及び一般に考案の把握に際して願書添付図面が果す補助的機能からみて、右第3図が通路における玉の滞溜を容認する構成を示すものとはいえない旨主張するが、引用例の明細書には、通路における玉の滞溜を否定する記載があるといえないことは前述のとおりであり(なお、「図示の実施例によれば、通路6は末部が切り開かれ」(第一頁右欄第一八行、第一九行)との記載も、右第1図、第3図を参酌すれば、通路6の中央よりレール5の始部寄りを末部と表現したものであつて、通路6の末端を切り開く趣旨ではないとみるのが相当である。)、願書に明細書と共に添付される図面の有する前記機能を考慮しても、引用例の実施例記載の装置が右第3図の図示する通路における玉の滞溜を容認する構成を有することを否定することはできない。更に、被告は、別紙図面(二)第1図についても同趣旨の主張を繰り返しているが、その理由のないことは、既に説示したところから明らかである。

(二)  被告は、仮に引用例の実施例記載の装置が旋回底板の枢支点から通路6の終端部に至るまでの間において玉の滞溜を許す構成を有し、この意味において打玉待機路に該当するものと認められるとしても、それは定速玉送り装置に該当するとされる制御片から玉打装置に至るまでの通路の一部であつて、定速玉送り装置と玉打装置との間に打玉待機路のみが存在するというものではないから、本件考案とは明らかに構成を異にすると主張する。

当事者間に争いのない本件考案の要旨は、「パチンコ遊技機の玉受皿2に連結した誘導路3の途中へ定速玉送り装置を設けたパチンコ遊技機1において誘導路3の終端を玉打杆4の直前、すなわち玉打位置に導き、送り装置と玉打装置との間を打玉待機路11としたパチンコ遊技機における打玉待機装置」であつて、本件考案の待機装置を有するパチンコ遊技機の一例を示す別紙図面(一)の各図(殊に第2図及び第4図)に図示された装置も、玉送り装置に相当する障害5、昇降杆6及び定速昇降装置7と玉打装置に相当する玉打杆4との間には、打玉待機路11のみが存在するものであつて、本件考案は、定速玉送り装置と玉打装置との間に打玉待機路のみを存在させるものであることが認められる。これに対し、引用例の実施例記載の装置においては、前述のとおり定速玉送り装置に相当する制御片7と玉打装置に相当する発射槌4に接する通路6の終端部との間に旋回底板14が設けられており、この旋回底板14上の、旋回底板に滞溜玉があつても旋回を強制されない位置から通路6の終端部まで(別紙図面(二)第1図、第3図によれば、玉が六個程度滞溜できる距離)が打玉待機路となるものであつて、定速玉送り装置と玉打装置との間に打玉待機路のみを存在させたものでないことは明らかである。

しかしながら、本件考案において打玉待機路を設けたのは、これにより早打ちを楽しむことができ、かつ休んでいる時間を通算すれば一定時間に対する制限個数以上を打つことはできないという目的を達成し、効果を奏するためであること、引用例の実施例記載の装置においても、前記打玉待機路はこれと同一の目的を達成し、効果を奏するものであることは、いずれも前述のとおりであつて、この点において、右装置は本件考案と同一の技術的思想を開示するものであり、しかも、本件考案は、前述の考案の要旨の摘示から明らかなとおり、打玉待機路の長さをどの程度とするかを必須の構成要件とするものでなく、引用例の実施例記載の装置と同一の長さとした打玉待機路をも含むものであり、両者の相違は、打玉待機路に滞溜する玉が意図した規制個数を越えることを、引用例の実施例記載の装置のように制御片のほか、旋回底板で外部に放出することで規制するか、本件考案のように定速玉送り装置のみで規制するかに基づくものにすぎない。したがつて、本件考案のように、定速玉送り装置と玉打装置との間全部を打玉待機路とし、この規制を定速玉送り装置で行うようにすることは、引用例の実施例記載の装置の単なる設計変更にすぎないというべきである。

(三)  以上のとおりであつて、本件考案と引用例記載の考案とは、その目的、構成及び作用効果において実質的に同一であつて、技術的思想を共通にするものを含むものであるのに、審決は、両者はその目的及び構成を異にした別異の技術的思想のものというべきであるとし、両者に同一性のないことを前提として、本件考案は当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえないから原告の審判請求は成り立たないものと判断したものであり、右前提判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、違法として取消されるべきである。

3  よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

パチンコ遊技機の玉受皿2に連結した誘導路3の途中へ定速玉送り装置を設けたパチンコ遊技機1において、誘導路3の終端を玉打杆4の直前、すなわち玉打位置に導き、送り装置と玉打装置との間を打玉待機路11としたパチンコ遊技機における打玉待機装置。

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